2010/08/05
卒園式での子どもたちの姿
卒園式でのことです。名前を呼ばれると、園児たちは一人ひとり園長先生から終了証書を受け取ります。ダウン症のY君は、担任が名前を呼んでも一向に姿を見せません。練習のときには、笑顔いっぱい返事もできたのに、普段とは全く違う雰囲気に圧倒されたのか、保育者にしがみつき、登場どころではなかったのです。やっとの思いで保育者と一緒に登場。証書をもらったものの、その証書を放り投げてしまい、筒がコロコロと音をたてて転がり落ちてしまいました。予想通りホール内は騒がしくなり、笑い声さえ聞こえてきました。しかし驚いたことに、卒園児も在園児も、ただの一人も笑わなかったのです。笑い声は保護者席からだったのです。
それまで、一度たりとも予想される行動を取りあげて「こういうときは、笑ってはいけません」と知らせたり注意したりしたことはありません。こうしたことが起こっても、ただひたすら保育者がその場で臨機応変に接する姿を見せてきただけなのです。
幼稚園児といえども、群なす子ども集団の遊びのなかで、自分の経験や考えに基づいた行動がとれるようになり、他人の考えを正したり受け止めたりすることができるようになってきます。相手のことを想う気持ちが育ってくるのです。ゴチャゴチャした生活のようにみえる子どもたちの生活は、実は人間らしさを育てる大切なエキスがいっぱいつまっているようです。
Y君との生活の中で、子どもたちの中に育ったものは、何だったのでしょう。笑わなかった子どもたちの姿から、多くのものを学ばされました。