2017/12/19

失敗、葛藤こそ育つチャンス

泥だんご作りを通して育った子どもの心

「発達」と聞くと、身長や体重が量的に伸びたり増えたりしていく、つまり身体の見た目が大きくなっていくイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。私たち保育者は、身体の成長はもちろん心の成長も「発達」に含めています。いろいろな出来事における、子どもたちの言動や仕草の奥にある心の動きなどに敏感になって、心の「発達」を捉えます。次に紹介するエピソードは、とある年長さんの泥だんご作りでの印象的な出来事です。

失敗や葛藤があるから成長できる

みんなと一緒に土遊び
みんなと一緒に土遊び

友だちが楽しそうに泥だんごを作っているのを、いつも見ているだけのKくん。保育者が「作らないの?」と声をかけると「どうせ壊れるから嫌だ」と言います。そこで保育者も遊びに参加して、ときどきKくんへ声をかけました。すると次の週には少しみんなと離れ、背中を向けて作り始めたのです。やっと出来上がったところで、友だちの方に向きを変え「できた」と言わんばかりに手のひらにのせていました。ところが「Kくんの大きいね」と近づいたMくんの手が触れてしまい、まだしっかり固めていない泥だんごが壊れました。Kくんは、怒鳴り声をあげて怒り始めました。

   
M「ごめんね、わざとじゃないごめんね」
K「ごめんねって言ったってゆるさない」
M「だってわざとじゃないから、ごめんね」
K「ゆるせん、ゆるせん」(怒鳴って怒っている)
見るに見かねて、保育者が近づき声をかけました。
保育者「ねえ、Kくん。いったい何個壊れたの?」
K「1個だけどー」
M「僕なんかもう3個壊れた」
保育者「先生もさっき作りかけたの、完成しそうなときに壊れちゃったよ。素敵なだんごができるまでに、うーん、100個ぐらいは壊れるんだよ。壊れるのが嫌だと、だんご作りは無理かなぁー?」
  

子どもたちが作った泥だんご
子どもたちが作った泥だんご

Kくんは下を向いて黙ってしまいました。Mくんは小声で「ごめんね」と言い、泥だんご作りを始めていました。
保育者は、そっと「Kくんがもう一個作りたいなら、秘密を教えてあげるけど……」と声をかけてみました。秘密といっても大したことではありません。ぎゅぎゅっと泥を一緒に握る程度のことです。その言葉で顔をあげたKくんは、すぐさま作り始めました。「なかなかいいねー」とほめると、自信がついたのでしょう。「やればできる」とつぶやきながら、いつの間にかMくんたちと一緒になって夢中になっていきました。こういうところが、幼児の素敵なところです。

出来上がった泥だんごを、友だちが靴箱の上にある箱の中に飾りました。それを見たKくんは、まだ見るからに壊れそうな状態のものを「僕も飾りたい」と持ってきました。保育者が「硬くなってる?」と尋ねると「もうできてるから大丈夫」と答えます。「ここに飾っておくと触る人がいて、壊れるかもしれないよ。もう少し固めてから飾ったら壊れないよ」とのアドバイスにも「今から飾りたい」と言います。この思いを受け入れて、箱の中に飾りました。
予想通り、帰るころに見に行くと泥だんごは壊れていました。すると驚いたことにKくんは「次は、もっと硬いのつくるから、これ外にもっていくね」と片付けをしました。あっさりと壊れた事実を認め、次へと気持ちを切り替えたのです。

集団の中で育っていく子どもたち
集団の中で育っていく子どもたち

育とうとする気持ちに寄り添って

この短い期間だけでも、試練を乗り越えて伸びていこうとするKくんの姿を感じます。「Mくんたちのようにうまくできそうもない」となかなか作り出せなくとも、保育者は決して手とり足とり教えたり、なぐさめたりしませんでした。しかし、その内面の葛藤には気付いています。やっとできた泥だんごの硬さも、毎日作って工夫しているMくんたちの泥だんごとは明らかに違います。ですがここは、泥だんごの出来を比較する場面ではありません。Kくんが自分なりに目標を持って挑戦し、もやもやした気持ちを切り替えていく姿。これを保育者はしっかり支え、Kくん自身の育っていきたいという気持ちに寄り添ったのです。
竹の子幼稚園では、こうした子どもの葛藤する場面があちこちで見られます。集団生活の中で体験するたくさんの失敗や葛藤が、育ちにつながっていくようにしたい。泣きながらでも怒りながらでも「何とかしよう」と力を発揮できるチャンスを、大人の先回りの言動で潰さないようにしたいと思う毎日です。

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