2019/2/19
絵本で伝わること
1冊の絵本から生まれた気づき
節分の時期になりますと、竹の子幼稚園にも鬼が現われます。男性の職員がしっかり仮装して、子どもたちを驚かせます。その鬼に戦いを挑もうとする子どもの姿は、微笑ましいものです。しかし子どもたち一人ひとりをよく見てみると、顔を引きつらせて部屋の隅っこで固まってしまう、感受性の強いタイプの子どももいます。そんな姿を見るたび、鬼との出会いをどうしたらよいのだろうと考えさせられます。
鬼は自分の心の中にいる
数年前、節分の時期に合わせて、私は『おにたのぼうし』(文・あまんきみこ、絵・いわさきちひろ ポプラ社)の読み聞かせをしました。この絵本は、節分の日に子どもの鬼のおにたが、帽子をかぶって人間の子どもになりすまし、母親を看病する貧しい女の子にごちそうを持っていくお話です。女の子はごちそうを喜んでくれるのですが、鬼の子を前に「あたしも豆まきしたい」と言うのです。「おにがくれば、おかあさんのびょうきがわるくなる」とも言います。その言葉にがっくりしたおにたは「おにだっていろいろあるのに」とつぶやき、その場から消えてしまうのです。
- みんな絵本に夢中
このお話を通して、年長の子どもたちの心にいろいろな思いが広がったようです。ひとりの子が「鬼だって、悪い心ばっかりじゃない」と言いました。「人間だって悪い人はいるよ」と続けました。「そうだよ、おにたがかわいそうだよ」といった子どもたちの声が、次々と出てきました。私は「鬼はみんなの心の中にはいないのかな……」とつぶやいてみました。子どもがとても真剣な表情になって私を見つめました。
豆まきにつきものの「鬼は外、福は内」という掛け声。そこに込められた「自分の心の中の鬼が外」という意味を考える力が育ってきていると感じた一瞬でした。
子どもの安心感を育てる読み聞かせ
- しっかり子どもに寄り添って
近ごろでは鬼のアプリがあります。子どもが言うことを聞かないとき、鬼に連絡して子どもを脅かすといったしつけに使うのだそうです。これはなまはげと同じ効果があるのだと言う人もいますが、それは違うと思います。なまはげの場合、親はしっかりと子どもを守る側に立っています。絵本でも、昔話にはずいぶんと怖いものが出てくるものもあります。そんなときは、読み手の大人はしっかりと子どもに寄り添って読み進めます。だから子どもは、愛情に裏付けられた安心感が基盤となり、自分の心の中の鬼を乗り越えられるのではないでしょうか。
人として育っていく過程で、子どもと鬼をどのように出会わせるのがよいのでしょう。心の中の鬼に出会い、乗り越えていくことは、とても大切なことのように思います。